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あの店に彼がいるそうです

第2章 郷に入ればホストに従え

 学生であること。
 類沢とはシエラで会ったこと。
 まだ二日目ってこと。
「で?」
 煙草をくわえた蓮花にライターを差し出す。
 それを見て彼女が笑った。
「あなたは、なんでホストになったの?」
―雅さんは……どうしてホストになったんですか―
 初めて、俺が彼に尋ねたこと。
「なんで……」
 なんでって。
 それは勿論借金を返さなきゃで。
 二百万のルイを弁償しなきゃで。
 でも、それを言うのは難しい。
 ていうか、言っていいのか。
 蓮花はじっと見つめている。
 なにか、言わなきゃ。
「ふふっ」
 蓮花は耐えきれないように笑った。
「誤魔化したっていいのよ。お金を稼ぎたいとか、モテたいとか、なんかないの?」
 俺は一口飲んで落ち着こうとする。
 喉が渇いて仕方がない。
 目の前にいるのは面識のない女。
 初対面というのが、またキツい。
 答えようというのと同時に、なんでこの人に、とか思ってしまう。
「えと……まだ、俺はゴールとか決めてないんで」
 蓮花は鼻で笑った。
 そして、目を正面から合わせる。
 ドクンと胸が鳴る。
 こんな女性、知らない。
 いや、今まで見たことない。
 強い。
 美しい。
 圧される。
「そのままじゃ駄目よ」
 蓮花はふいと目を逸らす。
「春哉が……なんでこの店開いたか聞いてみなさい? それがわかったら、№4には登れるわ」
「№4……」
 それが頭に響く。
 瀬々より上に。
 そしたら、店も違って見えるかもしれない。
 そんな予感が、ふとした。
「ごめんなさいね。沢山迷わせちゃって。また、来るわね」
 蓮花がバックから財布をとりだす。
 そして、会計の二十万とさらに二十万取り出した。
 それを俺の手に握らせる。
「あの……」
「これは、あなたの門出祝い」
「え?」
 蓮花は髪を指で梳く。
「初の指名客なんでしょ、私」
 ハッと事務室を見る。
 まさか。
 篠田が。
 その首をグイと戻される。
「春哉は関係ない。勿論、新人ホストがいることだけは聞いたけど、頼まれてもない」
「でも」
「でもじゃないの」
 蓮花は戸惑う俺の頬に、そっと口づけをする。
 ゆっくり、顔を離してから彼女は目を細めた。
 俺の胸元に視線を移す。
「怪我、早く直して。女性がびっくりしちゃうわよ」
「あ……」

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