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あの店に彼がいるそうです

第14章 夢から覚めました

 お台場の駅前広場の一角、光と水のオブジェとやらがある前で蓮花は腕を組み、ある人物を待っていた。
 待ち合わせは五分後。
 夕方のダイバーシティにはカップルや家族連れが多く歩いていた。
 オブジェから注ぐミストを眺めていると、後ろから声が掛けられた。
「お待たせ~」
「遅いわよ、鏡子」
「まだ時間前だけど」
 栗鷹鏡子は意地悪く微笑んだ。
 シンプルなレザーコートと黒のタイトパンツを履きこなす友人に蓮花も顔を緩ませる。
 大人の女性。
 二人には正にこの代名詞がよく似合った。
 アラウンドサーティ。
 上手く年齢通りに生きているとは思っている。
「悠は? 仕事?」
「これよこれ」
 そう言ってビリヤードの棒をジェスチャーする。
 蓮花はピアスを指で弄りながら笑った。
「また、か」
「また、よ」
「患者も放って」
「まあシエラの拓ちゃんも退院したし? 患者は今はいないからねえ」
「そっか。もうそんなに経つのね。一か月?」
 夜の冷たい風に身を抱きしめて、二人は足早に喫茶店に向かう。
 入ると同時にコーヒーを二つ注文し、一番奥の席に着く。
 腰を下ろすとすぐにコーヒーが運ばれてきた。
「失礼致します」
 胡桃と名の書かれたプレートを胸に、ウエイトレスは一礼する。
 下がろうとした彼女の手首を鏡子が掴む。
 その手を一瞥し、問うような眼。
「軽井沢から戻ってきた東京一の情報屋さん。あんたにお聞きしたいことがあるの」
 蓮花も足を組みながらじっと見つめる。
「なんでしょうか」
 ケイすら掴めない弦宮麻耶の行方。
 大人の二人は独自のルートで見つけようと一か月情報屋を訪ね廻っていた。
 最終的に辿り着いたのがここだった。
 彼女だった。
「ルシェモンブランを二つお願い」
 そう言いながら鏡子はメモを胡桃に渡した。
 それを素早く胸ポケットに入れ、カウンターに戻る。
 ケーキの並んだウィンドウを素通りし、彼女はスタッフオンリーの扉を抜けて行った。
 扉が閉まるまで見送ってから、鏡子が溜息を吐く。
「なあに……あれ? タメぐらいのはずよね」
「こっちまで冷や汗掻いちゃったわ」
 ふふ、と苦笑いし合う。
「ここもダメだったらどうする?」
「やめて鏡子」
「なんで蓮花がここまでするの?」
「……なんでかしらね」
 親友の顔をじっと見て、鏡子が呟く。
「チェリーボーイ大人気ね」

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