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雨とピアノとノクターン

第10章 暗躍編:借り

校庭に避難した生徒たちは起震車や煙体験ハウスなどに分散して災害時の身の置き方を学ぶことになっている。
 浦原は自分の仕掛けた細工が上手くいくか見届けるため、起震車体験の列の中にいた。
「じゃあ、申し訳ないけれど僕は一番に体験させてもらうよ。きっと激しい揺れだと思うから、みんな、僕がうろたえてもあまり笑わないで下さい」
 佐屋は周囲から笑いを誘うような冗談を言いながらも、真剣な表情で起震車に乗り込んだ。その様子に遠くから見ている浦原も満足げな表情でクライマックスを待っている。揺れが起きたら、捕まったテーブルの脚が破損して佐屋が負傷することになるだろう。無様な姿を皆の前で晒して大恥をかくことになるのだ。
 ところが、激しい揺れが起きてはいるものの、テーブルの脚はいっこうに破損する様子が見られない。ガタンガタンと上下左右に揺れて家具通しがぶつかり合う激しい音がしてはいるが、佐屋は冷静にしている。周囲からは“お~”と
感嘆の声が漏れた。

 そんな馬鹿な!?

 さすがに暗躍を得意としてきた浦原の目に焦りの色が浮かんだ。

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