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雨とピアノとノクターン

第10章 暗躍編:借り

シェイクアウト訓練は震度6強の地震が発生した想定で生徒たちが校庭にすみやかに移動しはじめた。事前に私語が目立つ場合は“何度も延々とやり直す”というとんでもないペナルティを課せられるため、皆が不満がありつつも、ハンカチなどを口に宛がいながら協力的に移動をしている。
「いざとなったらこのような訓練に意味を成すものかどうか…」
 薬師寺は独り言を呟いた。周囲には聞こえないくらいの小声で。だがそのふてぶてしい表情が、次の瞬間に一変する。
 彼の本来の性格が災いしたのか、単独行動で外れて歩いていた彼をめがけて、校庭に設置された散水銃が一斉に彼に向けて発射されたのである。物凄い勢いで放水され、彼は濡れ合羽のようにびしょぬれになった。
「〇△π※$⁂×●#%6@!!!!!!!!」
 彼の叫びはもはや言葉にはなっていない。突然の災難に我を忘れて口汚い言葉で罵っているように見えた。そんな彼に大変なことが起きていることにまだ気づいていない者がいた。浦原だ。校内では極力二人で接触することを避けていたせいで、自分の身にもなんらかの災難が降りかかる予知が出来ずにいたのだ。

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