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雨とピアノとノクターン

第1章 出会い編:金髪の野良猫

「…仕方ない。じゃあ、僕も好きにさせてもらうさ…」
 僕は鳴海と腕を組み、校舎へと急ぐ。
 その効果は覿面だった。モーゼの十戒のごとく人波のなかに道が出来る。雑音が聞こえていた周囲は、引き潮のように静まり返った。
 そして、僕に半ば強制的に腕を組んで引きずられている男は…
「佐屋っ!テメー!!わざとやりやがったな!離せ、離せってんだろ!」
 やはり顔を真っ赤にさせて怒っている。
「本当に解りやすい奴だな…君って…そう、あんまり興奮するなよ」
「朝っぱらから男同士で腕組んで歩いてりゃ、誰だってどん引きだろっ!すげー嫌がらせだ!どーしてくれんだ?オレは学校中の笑いモンだし、他所の学校の奴らに示しがつかねーっ!」
「つまんない虚勢なんて張るの、やめたらどう?それより、さっきから興奮して怒りっぱなしだけど…ヘーキ?」
 ムキになる鳴海をからかうのが、こんなに楽しいとは思わなかった。僕は噴出しそうになるのを必死で堪える。
「……平気って…なんだってばよ?」
「血液が海綿体に集中すると、男には何かと厄介なんじゃない?※ウロでは常識だよ」
「へ?」
「君のサイズがたとえ大したことなくても、立っちゃうと困るでしょ?」
「……こ…このどスケベ野郎っ…!」
「ほら…また怒る…」
 僕は手を振り、鳴海の元を離れた。相変わらず怒っていたけれど…帰りは門のところで待っててくれるんだろうか?誰かと感情をぶつけ合うこと…それが久しくなかった分、鳴海とのこういったやり取りは、僕には酸素のように不可欠なものだった…。


※ウロ…urologyの略 泌尿器学

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