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雨とピアノとノクターン

第5章 ピアノ編:覇者の美学

暁学園へと向かう電車に揺られている最中でも、鳴海は怒りを抑えることが出来ずにいた。
「次は~暁学園前、暁学園前…」
 電車の車掌の軽快なアナウンスに弾かれるように反応した。
「…………っ!」
 車内のアナウンスがなければ、思わず怒りに任せて乗り過ごしてしまうところだった。
 胸に赤い雲を象ったような、エンブレムの入ったブレザーを着た生徒たちが、校門からまばらに出てくる。下校時刻のピークを過ぎていたせいか、
思ったより人がいなくてよかった…と思った。
「…あの、スミマセン…」
 近くにいた女子生徒にペコリとおじぎをし、鳴海は台場の所在を訊ねた。2、3人に同じことを繰り返し、意外に早く彼の居場所を知ることができた。
なんでも、いつも校舎の外れにある、怪しげな小屋で創作活動をしている…とか。結構有名人らしい。(変わった意味で)
「えっと…たしかこの辺りだって、聞いたよな?」
 他校の制服を着た自分は完全にアウェイだ。暁の教師に見つかったなら、すぐにつまみ出されてしまう。鳴海は一刻も早く急ぐ必要があった。
「あった!…ここだ、特撮アート芸術部」
 鳴海はドアに貼られたプレートを声に出して読んだ。
「アート芸術部って…“アート”も芸術も意味同じじゃねーかよ?意味わかんねー…」
 思わず、今までの怒りがふつふつと湧いて来る勢いで、ツッコミを入れた。
そして少し乱暴にドアをノックしてみた。

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