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雨とピアノとノクターン

第6章 ピアノ編:完敗?

鳴海………。彼は佐屋からそう語りかけられているような気持ちになった。

 今なら、すっげぇ…解るって、佐屋。
 オレに向かって、それって弾いてくれてるんだよな?
 オレのためだけに…。

 佐屋の細い指先が、88鍵の眠りを呼び覚ます。

 この想い…届いてくれ…。
 言葉なんかじゃ、君をつなげないから…。
 鳴海…
 僕は…君がたまらなく好きだよ…。

 目を閉じていた佐屋の眼が一瞬見開き、打ち上げた指を鍵盤に走らせる。

 好きすぎて…悲しいのは…なぜなんだろう?

 右手の主題に左手が追従する。ショパンのその調べは喩えるなら…
 
 鳴海を追う佐屋のようだった。

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