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担当とハプバーで

第8章 最後の約束


 なあ、凛音。
 漆原瑛壱。
 俺の本名。
 似合わんだろ。
 いつの間にかハヤテの方がしっくりくるようになってた。
 バーでは意外とバレないんだ。
 いつか本当に逃げ出したくなったら、ハワイに行く前にまた店に来いよ。
 それからリクエストの感想を投げてくれればいい。
 最新動画にケチをつけてくれてもいい。
 でもそんな未来は、
 永遠に来なくていい。
 これからも引退までは不定期にバーに通うだろう。
 そこにだけは現れないで欲しいけど。
 ってのは我儘か。
 レスの彼氏のおかげで動画にたどり着いたわけで。
 欲求不満を責めることはできない。
 だけど誰でもいいなんて地獄だから。
 コメント欄から探し出すことなんてしないから。
 いつかしれっと顔を。
 タバコを折って捨てる。
 自嘲を漏らして、背伸びをした。
 コキコキと首を鳴らすと、少しだけクリアになる。
 ポケットにしまった端末が、仄かに熱い。
 ぐっと強く握りしめた。
 それから扉を開けた。

「遅えぞ、ハヤテ。手伝え」
「タツさんのオリシャン何本でも飲みますよ」
「言うじゃん。生意気。動画企画で負けた腹いせに二本いっちゃってえ」
 脳を揺らすほどの音楽の中、飲み干したシャンパンの泡が身体中を満たしていく。
 手拍子と拍手が波となって押し寄せる。
「後輩飲むならタツさんもね!」
 マイクに叫んだ声の余韻が、シャンパンの応酬が、ポケットの中の熱を少しずつ奪っていった。




















ー完ー
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