担当とハプバーで
第2章 危険な好奇心
「葉野さん絶対良いことあったわ。顔つきが違うもん。ついに結婚とか?」
翌日の昼休み、席を立つ前に有岡に捕まった。
「ないない。あっても浮かれないし」
えー、と疑わしそうに首を傾げる。
若いキミにはわからないよ。
自虐的なため息が漏れる。
結婚準備の雑誌を買って、浮かれて会場見学してフルコース試食会をしたかったよ。
友達みんなに先越されて、残ったのはキャリア重視か、独身謳歌勢だけ。
その中には混ざれずに、まだ結婚を求めている。
その気まずさ、肩身の狭さなんて、この赤マッシュルームがわかるはずない。
毎晩の虚しさだって。
「だから、大丈夫だって」
思考の闇を散歩しているうちに有岡が話し終わっていたので、慌てて反応する。
「えあ? うん、そうかもね」
「でしょ。じゃあ、金曜企画しとくね」
え。
企画?
なんの話と聞き返す前にさっさとイヤホンをつけて退室されてしまった。
生返事の報いだ。
なに。
企画って何。
飲み会?
あとで社内チャットで聞けば良いか。
貴重な昼休みを無駄にする前に、急いで席を立つ。
今日は会社の前に来るキッチンカーにしよう。
フリースペースで動画を見ながら食べよう。
エレベーターを降りつつ、居合わせた男性陣の背中を眺めてブログを思い出す。
途端に性的な想像を重ねてしまい、急いで思考を落ち着けようとする。
名前も知らない別の階の健全な他人になんてこと。
ハヤテ相手の妄想で飽き足らず。
くたびれて見える年上でさえ、ベッドでの姿は魅力的なのではと過ってしまった心を取り除きたい。
ポーン、と音がして足早に降りる。
そんなに欲求不満なのかな。
誰でも良いレベルってこと?
違う違う。
そろそろ排卵前だからだ。
ホルモンの乱れ。
そのせいにしておこう。
キッチンカーを見て頬が上がる。
ホクホクのホットドックが会社の前で買えるのは嬉しい。
それにここのソーセージはパリッとしてて絶品。
「いらっしゃいませ」
あれ。
いつものショート金髪の女性でなく、背の高い若い男性だった。
野太い声と控えめな接客に調子が狂う。
「前の人、辞めちゃったんですか」
お節介ながらも尋ねてしまう。
男性は品物を渡しながら答えた。
「あー、他の店任されたそうです。味変わったとかあれば教えてくださいね」