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担当とハプバーで

第5章 呼吸もできない沼の底


 サボることくらいだってあるよ。

 週六勤務で築いた今の地位と、毎日入る客からの予約に約束にアフターのおねだり。
 これだけ使ったんだからと店で怒鳴られ、アフターで泣かれて、家に来てよと懇願される。
 付き合うなんていったつもりもないのに自称彼女から束縛メッセージの連打。
 幸いなのはエースが痛くないことか。
 月に三回来ては仕事と夫の愚痴と同伴の誘い。
 早くトップになってという言葉だけは耳が痛いが、それ以外は距離をわきまえた遠慮深い姿勢に三年前からの恩も募る。
「最近新規が増えたみたいだけど、私との時間を削ってまで挨拶に行く必要あるの」
「動画見たけどあれ、こないだのあたしのことだよね」
「もう無理だって……これ以上お金ないもん。だから店外で会おうよ」
 うるせえな。
 勝手に夢見て理想の彼氏押し付けんなって。
 金がないからって夜職紹介されたの自慢げに話してくるなよ、頼んでもない。
 嫌な仕事で稼いだ金を一晩で溶かして恨みをこちらに向けるくらいなら、やめちまえよホスト通い。
 開店前の喫煙室にナオキが現れる。
 朝礼前には決まって顔を合わせている。
「ハヤテまた売り上げ上がってんじゃん。こないだのコスプレバズってたもんな」
「ナオキさん、俺今日早上がりします」
「はあ? なんでだよ金曜だぞ」
 二百万再生のおかげでアンチも急増してコメ欄荒れてるから、方針整えるために更新が止まっていると聞いた。
 あれから凛音も来てないし、新規はバズった動画だけ見た薄っぺらい奴ばかり。
 本指名になんて繋がらず、初回の安い料金で動画の向こうの存在を確認して満足で帰っていく。
「今日アフターも入れてないんで。九時には上がっていいっしょ」
「またムラついてんのかよ、若いなお前」
「客食うよりマシでしょ。まあチーフにも報告済み」
 月に二度ほど早退をしても、客管理ができていればお咎めなし。
 太客来店時に不在なんてヘマは犯さない。
「タツも通ってんだろ、そこ」
「ええー。ナオキさんまで来たら、穴兄弟増えそうで無理なんだけど」
「安心しろよ。お前と好み全部被ってねえから」
「ギャルぅな奴なんてクラブで引っ掛けときゃいいじゃん」
「ホテルまで移動が面倒だろ」
「あ、時間っすよ。絶対店名教えないんで」
「くそ、じゃあタツを落とすよ」
「無理ゲー」
 同時にタバコを灰皿に潰す。

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