ふざけた奴等
第3章 俺が俺であいつも俺で
「おはようございます、坊っちゃま」
夢から現実に引き戻す声。
僕だけの執事。
いつだってそばから離れない存在。
「お、はよう。爺」
寝癖を押さえながら起き上がる。
裸ではなかった。
意識を失う前と同じ。
見慣れない小さな部屋に、いつもと違う色のスーツの金。
カーテンを開けて、隅に留める。
その背中が、記憶と違う。
「お前……爺じゃないな」
声が震えていた。
言葉にしたら、怖くなったから。
そっくりなのに、どこか違う。
「……私は執事でございます」
金が振り返って微笑む。
テーブルに置いてあったティーセットを運んでサイドテーブルに広げる。
カチャカチャと。
心地よいリズム。
それに浸りかけてハッとする。
僕はなるべくベッドの端に逃げた。
シーツをぎゅ、と掴んだまま。
「ここどこだ。なんで僕の部屋に入ってきた」
「つれないことを仰らないでください、坊っちゃま。ご友人方は既に動かれているのですから」
湯気の立つカップを渡される。
そっと受け取った。
この香り。
ヌワラエリヤ。
セイロン島産の。
僕がストレートが好きだからっていつも取り寄せてくれている。
「爺、なのか」
「残念ながら私は坊っちゃまの好きな爺ではございません。今は早雪様に仕える身です」
嘘だ。
僕の執事じゃないだと。
ガチャン。
「坊っちゃま?」
カップを投げ捨て、金の腕を乱暴に掴んでベッドに引きずりこむ。
両肩に体重をかけて金を見下ろした。
「ふざけるな。爺。お前は僕の、僕だけの執事だ。他の誰に仕えることも従うのことも許さない。僕を起こすのも食事や風呂の世話をするのも性処理に付き合うのもお前以外認めない!」
はあはあ。
一気に怒鳴ったせいで息が乱れた。
そ、と頬を触れられる。
ほら。
いつも通りじゃないか。
「申し訳ありません」
なんで謝る。