ふざけた奴等
第1章 鹿は馬より速いはず
「馬鹿ってあるじゃん」
帰り道で突然りーやんが問いかける。
「あるっつうか、いるな」
「馬鹿って言葉ね」
「あ、花札の話?」
なんでそこはどや顔で攻めてくるんだよ。
賭け事好きか。
「こいこいじゃなくて」
「くいくいけいけいこいこい妖怪?」
「ウォッ」
「言わせねえよ」
鞄スウィングで黙らせる。
「え? え? なんて?」
「ちょと待ってちょと待って、つめたいんだからぁ」
「黙れっつってんだろニーブラァ!」
「首が! オレの首が!」
極めていたチョークを解いてやる。
こたろんが大袈裟に噎せながら俺の腰を蹴ってくる。
痛ぇし会話が進んでねえ。
歩を止めて後ろを見る。
「馬鹿がなんだって、りーやん」
「馬と鹿ってどっちにバカ要素があるのかなあって」
「は?」
聞き間違いかな。
日本語なのによくわからんな。
「だから、漢字には由来があんだろ。故事成語だってそうだろうけどさ」
古典も現国も追試常連がなんか言ってる。
タンッ。
前を歩いていたこたろんが音を立てて踵を返すと仁王立ちでニヤリと微笑む。
「馬に決まってんだろ、お前ら。いいか? 鹿は崖を下れるんだぜ。ほら、戦国時代の兵法の辺りにあっただろ。鹿が行けて自分たちが行けない訳ないみたいな話がよ。馬は駄目だ。しかも鹿は馬より早いはず。頭いーからな」
「何故そんな堂々と語れる」
根拠は皆無だろ。
脚の速さは知性には関係ねえよ。
馬鹿か。
「こたろん物知りー。じゃあさ、馬のがバカなら、馬馬のが比較級で更なる侮辱になんのかな」
「ばばて……」
金さん嘆くぞ。
お坊ちゃん。
「そうか。馬鹿の比較級は馬馬で、最大級は……ペガサス! そういうことだな!」
「なるほどねえ。スッキリした」
ペガサス二頭楽しそうだな。