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首輪の王とタランチュラの娘

第1章 プロローグ

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その昔、ある新生児病棟で究極の二択があった。
災厄から保護している新生児たちに、まだ未認可・研究中の錬金術による新薬ワクチンを使用するかどうか。
それが細胞の質や遺伝子を変容させるほどの副作用はほぼ確実であったし、場合によってはショックで死亡すら有り得る。けれどもこのままでは過半は助からないだろうし、たとえ新型の疫病で死こそ免れても一生を重篤な障害に苛まれることは確実だった。
何より、ワクチンや対抗手段がなければ、今後も世界的に被害や犠牲者は増大し続けることだろう。おそらくそれは人類の存亡にすら影響する規模になる。

「それって、結局は違法な人体実験ですよね。どうせ病気で死んだりするんだったら、その前に実験してやれっていうのと同じで」

「そうだ。だから君らは関わるな。これを注射して罪を背負うのは、私や腹くくった代表だけでいいのさ。君らは事後のこの子らの世話をしてやってくれたらいい」

老齢の魔術医師は、ふっと旧知に想いをはせる。
別の研究所でも「悪あがきじみた探究」は続いているのだ。発掘された古代生物の組織を移植するようなサイボーグ実験まで行われていると。
まだ、自分たちのやっていることが「穏健なやり方」だと思いたい。
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