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時給制ラヴァーズ

第4章 4.センターラインを越えて

「えーっとね、正直よく覚えてないっていうか、記憶がおぼろげで実感なくて」
「覚えてないのか?」
「うーん、ただなんとなく、すごく気持ち良かったなぁってことし……いや、今のは忘れて」
「どこも痛くないならそれは良かったけど……」

 俺と違って色々覚えているらしい慶人は、なぜか俺よりも焦って困っていて、愕然と俺を見つめている。
 だって途中まではお互いの意思があってしてたことだし、最終的にああなったとしても襲われたって言うのとはちょっと違う。

 ……というか正直なところ、気持ち良かったことしか覚えてないから怒るもなにもない。
 それに俺のおぼろげな記憶だけで言えば、慶人は恥ずかしくて気持ちいいことをした相手になる。気まずい思いはあっても、やっぱり気持ち悪さは湧いてこない。

「とにかく、過ぎたことだし起こったことは起こったことなんだから、難しく考えるのやめ! 事故ってことで、この件は終わり。お互い気にしないってことで。ね?」
「……」

 ギスギスした雰囲気はイヤだし、これ以上考えても答えが出ないなら考える必要はないと思う。
 謝られても俺が被害者だとは思っていないし、忘れましょうと再度繰り返す俺を、慶人は黙ったまま見つめていた。


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