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ミニチュア・ガーデン

第4章 幸せへの崩壊

 彼が暴れるためだろう、普通の収容室ではなく、壁などは柔らかい素材で覆われており、椅子も木製や鉄製ではなく、プラスチック製の物が置かれ、ベッドはなく、床に布団を敷いているだけだ。それらには血が付着している。その血は状況から見て彼の血である事は間違いない。
「死にたい……」
 腕の中で彼は呆然と口にする。
 この世界を創ってから、既に十年は経過している。それよりも比べるまでもなく生きているガルクには、あっという間、刹那とも言える時間だったが、地獄を這っていた彼には長過ぎる時間だ。正気でいられる時間ではない。
 甘ったるい逃避に浸かり、大切な物を見過ごしていた罪悪感は重くのしかかる。飢えに筋肉まで分解して生きながらえていた哀れな体を抱き締め、堪えきれない嗚咽を漏らして泣く。
 囚人服の下から伝わる感触は硬い骨ばかりだ。しなやかな筋肉の感触などない。痩せこけてギョロリと目だけが大きい顔に触れても、陶器の様な滑らかな感触などない。荒れて傷だらけで、ガサガサのデコボコな感触だけだ。何処かを見たまま動かない瞳も酷く濁り、半開きの口から唾液が漏れている。それも、拭う気配もない。
「ラーク、ラーク」
 軽く揺さぶって呼びかける。無抵抗な体はガクンガクンと首を揺らし、気絶したように力が抜け、ガルクは反射的に両手で抱える。
「死にたい。殺して。死にたい。殺して……」
 まるで呪詛の様に、彼の口から哀願の言葉が漏れる。今の彼の中には、もう、それしかないのだろう。

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