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真夏の夜の夢

第6章 第五夜


知美と豊が解放されたのは朝日が昇り、
ほんのわずかな窓の隙間から
光が射し込んで来た頃だった。

『あれは夢?…』

知美が股間に手をやると
女性自身からは冷たい精液が流れ落ちていた…

『私…幽霊に犯された?』

隣に目をやると
恋人の豊は、
とても満足そうな表情を浮かべて熟睡している。

「豊!逃げよう!
ここにいたら憑り殺されるわ!!」
金縛りが解けて自由になった手で
豊を揺り起こした。

「やあ、おはよう…
知美、昨夜は凄かったじゃないか
お前があんなに情熱的だったとは知らなかったよ」

豊は昨夜の情事が
知美とセックスをしていたのだと勘違いしていた。

「ここから出なきゃダメ!」
知美の剣幕に仕方なく豊は身支度を始めた。

さて、いざ逃げ出そうとしたが、
肝心のドアが開かない。
窓ガラスを叩き割ろうとしたが
目張りのパネルがこれまた開かない。

途方に暮れていると、
どこからともなく
『あんたたち気に入ったから帰してあげないよ』と、地響きのような声がした。



廃墟のラブホテルに買い手がついて
解体し始めた業者が、一室の中から痩せ細った一組のカップルの遺体を見つけ出したのは
それからひと月後の事だった。

その部屋というのが
ある熟年カップルが心中自殺をした、
いわく付きの部屋だったということだった。


いかがでしたか?
ラブホテルというのは、
ほんに怖いところだと聞いたことがございます
男と女の情念が渦巻いている所でございますからねえ
ですから作家先生もその様なところにお泊まりすることなく、今後とも当旅館をご贔屓にしてくださいませ


静かに蝋燭がまた一本吹き消された。

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