DOLL(愛しきラブドール)
第5章 逃避行
ピンポーン…
チャイムを鳴らしてみたが応答はない…
「季実子さん、俺です。西嶋です」
ドアをノックしながら俺は名乗った。
これまた反応がないので
諦めて帰り書けたその時、
カチャと鍵が開く音がして、
一気に老けてしまったかのような季実子さんが
顔を覗かせた。
「ちょ、ちょっと季実子さん、
どうしたんですか?」
腫れ上がった頬を見て
俺はたじろいでしまった。
季実子さんは何も言わずに
俺の手を取ると中に引きずり込んだ。
「季実子さん…」
ドアを閉めて心配になって声をかけると、
季実子さんは俺に抱きついてきた。
これは只事ではないと
俺は彼女に問いただしました。
あまり話したくなさそうな季実子さんでしたが
少しずつ昨夜の俺の部屋から帰った後の出来事を
ぽつりぽつりと話してくれました。
俺は話を聞き終わってから
手がブルブルと震えてしまった。
『あの優しい先輩が?何故…』
にわかに信じられませんでしたが
季実子さんの腫れた頬が真実を物語っています。
「警察に行こう、会社にも報告しようよ」
そのように促しましたが
彼女は「もういいの、全てを忘れるから」と
拒みました。