マッチ売りの少女と死神さん
第7章 1月3日…ただ触れていたいから
「……そんな風にしか、僕は思えない。 自分を傷付けた相手に、君は構ってほしいあまりに刃を渡した。 それはつまり酒だけど。 だけど、お父さんは君みたいに強くない。 そして僕も」
頭にかかっていた霞が晴れて、段々と、サラの思考が冴えてくる。
(なぜ、ホーリーさんは汗をかいてないのかしら)
彼も自分と同じに、それ以上に高まっていると思っていたサラはふと気付いた。
彼の濡れた肌は、これは自分の汗だ。
「だから君にどうしようもなく惹かれた。 どうしようもなく触れたかった。 サラちゃん。 君も他人を傷付けるべきだ。 傷付けた人の痛みも知るべきだ。 でないと、僕には君は眩しすぎて……むしろすべてが嘘に思えてしまう」
彼の、沈んだ小さな声はまるで粉雪のように、今にも消え入りそうだった。
こんな時にふざけた様子もなく、心の内を明かすホーリーを初めてみた。
俯いていたサラの目に涙が溜まった。
(そういえば、今も、これまでも、彼の体はずっと冷たかった)
そんなことも気付けなかった。
『触れたかった』のだとホーリーは言った。
それはつまり、彼と抱き合うのはこれで最後なのだと、サラは薄っすらと理解した。
「……わ、私に、何か出来ることは…ありますか」
ホーリーの悪魔の囁きともとれる言葉に
「もしも……もしも、サラちゃんが僕の所まで…堕ちてくれるんなら、生きるよ」
……サラは黙って頷いた。