マッチ売りの少女と死神さん
第12章 エピローグ
「ありがとうございます」
窓越しに軽く会釈を返し、馬車が通り過ぎていく。
その後すぐに、路地から男達がわらわらとホーリーの所へ寄ってきた。
「オイオイ、銭だぜ!」
「ヒュー! えれえ別嬪だったナア……相当な金持ちの奥方だぜえ、ありゃ」
「しかし何だ? 履いてた靴はボロボロだったな」
威嚇するカリムをなだめ、ホーリーがヘラヘラ笑って訊いた。
「………どんな靴?」
「何だろな。 白いブーツっての? もっと若い女が履くような…赤いリボンが付いてたっけ」
「そう…フフフ…綺麗だったもんねえ」
ひと言呟いたホーリーは俯いてその場から動かずにいた。
彼は今でもはっきりと思い出すことが出来た。
早朝のキラキラと光る雪の中、新しいコートとブーツに身を包み、はしゃぎ回る少女の姿を。
『僕は永遠に君を愛することを誓うよ』
そう言った時のサラの驚いた表情を。
この目にはもう君しか見えない。
自分を傷付けることもない。
ホーリーは、馬車の音が聴こえなくなっても、いつまでもいつまでもその場に座っていたのだった。
【完】