マッチ売りの少女と死神さん
第2章 12月31日…死神さんに穢されました
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起きていたのか眠っていたのか。
窓の外が白み始めていたのにサラが気付いた。
(どれだけ経ったのかしら…)
ホーリーは彼女の隣で寝息を立てて寝ていたが、それなのにサラは動けずにいた。
『僕から逃げたらどうなるか、分かってるよね…?』
そう言われたからだ。
そういえばホーリーは寝入る直前、こんなことも言っていた。
『本当は君は大みそかの晩に死んじゃうはずだったんだけどねえ。 知らずに死ぬのなんて、可哀想だよねえ』
(そんなの…もうどうでも、いいけど……)
人が死ぬ前には死神に襲われるものなのかしら。 そんなことをぼんやり思った。
信仰心の厚い少女にとって、教会できつく禁止されている、婚姻前にみだらな行為をしてしまった事実。
それは下手をすると死よりも耐えがたい失望だった。
「…っつ!」
起き上がろうとすると全身にズキッとした痛みが走る。
「んん…サラちゃん…?」
息を呑んでいるサラの視線に気付き、目覚めたホーリーが両腕を伸ばして大きな欠伸をする。
「ふあああ…コッチの世界って眠くなるんだねえ。 でも気持ちがいいや」
「そ…うなの……」
(私が今感じているのは、苦痛でしかない……)
シーツで体を隠しながらサラは暗い気持ちで返事をした。
「サラちゃんはさあ、僕と会えて幸せ?」
ちら、と少女を見やった彼があんまり思いがけないことを言うものだから、サラは驚きのあまり目をしばたたかせる。
「……は…え、ええ…?」
「そっかあ、嬉しいなああ…うふふふ」
ホーリーは照れたように笑ってサラの手を取り、甲にキスをした。
「良かったあ……正直、かなり緊張しちゃったからさあ。 何しろ君は僕が初めて……ああ、やっぱり少し…疲れるみたいだなあ」
「………?」
「サラちゃん、愛してるよ……」
そう言うとホーリーは片手をついてサラの頬に口づけをした。
かと思うとうとうとと左右に揺れ、再びバタリとベッドにうつ伏せで倒れ込む。
間もなく彼から規則的な呼吸が聞こえた。
(……寝ぼけてたの?)
明るい所で見る彼の腕は意外に華奢だった。
それよりもそこには一面、無数の切り傷の痕があった。
「愛………」
疑問符が頭を飛び交う中で少女は微かに呟いた。
「愛って何だろう……」