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『エリーゼのために…』

第1章 エリーゼのために…

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 いつも…

 この高台にある、どこから見てもお金持ちの家…
 そんな立派な造りの大きなお屋敷の横を通り過ぎる時に、いつも聴こえてくるピアノの曲。

 こんな僕でも分かる、いや、聴いたことのある…

『エリーゼのために…』

 学校帰りのほぼ毎日の夕方に、このお屋敷の脇を通ると必ず聴こえていた。

『ほら、お前の通学路の途中の高台に大きな家があるだろう…
 そこにコレを持って行ってくれ…』
 帰り際に、担任にそう言われ、何枚かのプリントやら、書類を手渡せられた。

『え?…』
 僕は、一瞬、何の事やら分からなくてポカンとしていると…

『あの家はずうっと病欠している3年生の家なんだよ…
 で、進路指導関係の書類をな、置いてきて欲しいんだと頼まれたんだよ…』
 と、担任はその経緯を話し、そして僕は一方的に押し付けられてしまう。

 ま、本当に帰り道の途中だし、置いてくるだけだからと、引き受けたのだが…
 まさかあの家が一つ上の3年生の家だとは、本当に知らなかったのだ。

 そういえば、半年位前に越してきたんだっけ…
 それまでは暫く空き家だったのを思い出していた。

 ずっと病欠か…

 じゃ、あのピアノ弾いているのがその3年生なのかな?…

 そんな事を思いながら、その高台のお屋敷に着くと、やはり、いつもの様に『エリーゼのために…』の美しいピアノの調べが聴こえてくる。

 ピンポーン、ピンポーン…

 呼び鈴を何度か押しているのだが、無反応であった…
 だが、ピアノの調べは聴こえてきている。

 そうか、ピアノ演奏でチャイムが聞こえないのかな?…
 僕はそう思い、ピアノの音を頼りに玄関脇から中庭?へ歩いていく。

 果たしてどんな三年生の先輩が弾いているのか…
 興味があったのだ。

 そして変わらずに、美しいピアノ演奏の調べは聴こえていた…




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