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『エリーゼのために…』

第1章 エリーゼのために…

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 僕は、ピアノの音を頼りに玄関脇から中庭?…へ、歩いていく。

 果たしてどんな三年生の先輩が弾いているのか興味があった…
 そして変わらずに、美しいピアノ演奏の調べは聴こえていた。

 うわ、大きな木、そして広い庭…

 あ、池まである…

 自分の家のまるで箱庭のような狭い庭と思わず比べてしまい、感嘆してしまう。

「あっ…」
 するとリビングであろう大きな窓ガラスの向こう側に…
『エリーゼのために』
 を、ピアノ演奏をしている女性の姿が見えた。

 肩までの黒髪…

 白いブラウスに黒のカーディガン…

 黒いロングスカート…

 俯いているから顔は分からない…

 だが僕は、そのピアノを弾いている美しい姿に思わず見とれてしまう。

 あ…

 すると彼女は不意に顔を上げ、こっちを…
 庭に忍び込んでいる僕を…
 見た。

 フェミニン…
 と、いうのだろうか。

 物静かな雰囲気の、色白で、大人っぽい綺麗な顔をしている…

 とても一つ年上の中学三年生には見えない…

 高校生みたいだ…

「あ…」
 
 その彼女が…

 微笑みながら、こっちに来い…
 と、手招きしてきた。

 多分、中学の制服を着ているから…
 庭に侵入していても怪しくはないと思ってくれたようだ。

 僕は、リビングの窓に歩み寄ると…

「あ、ご、ごめんなさい…
 チャイムを何回か鳴らしてたんだけど…」
 必死に言い訳をした。

「ピアノを弾いていたから…聞こえなかったみたいね…」
 その声は、顔に似ずに、意外にハスキーだ。

「あ、あの、これ、プリント頼まれて…」

 そして慌てて手にあるプリントを差し出すと…

「あら、わざわざありがとうね…」
 そう微笑みながら囁き、手を伸ばして受け取った。

「ふーん、進路系の書類かぁ…」
 そしてプリントを見ながら呟いた。

「わざわざありがとう」

 また言ってきたから…

「え、いや、帰り道なんで…」

 そう言うと…

「あの坂の下の家よね?」

「え、知ってるんですか?」

「うん、二年生だよね…」

 驚いた…
 僕を知ってるんだ…

「何かお礼しなくちゃね…」

「あ、いえ、そんな、帰り道だし…」

「ううん、ちょっと上がって…」

「えっ」

「さあ、上がって…」
 


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