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ソルティビッチ

第1章 ソルティビッチ…

 48

 彼女は彼氏にカクテルを浴びせ、勢いよく立ち上がって席を立ち…
 踵を返し、店から出て行った。

「あっ、あ…」

 一斉にカウンターのお客達は、一瞬、騒めいたのだが…

 実は、この『バーBitch』では良くある光景…

 つまり、女を口説き損ねた男の末路の、このバーにとってのよくある光景、風景の一部でしかなく…

 騒めきも一瞬で収まったのだ。

 そして男はバツの悪そうな顔をしながら、顔を拭き…
 彩ちゃんも黙っておしぼりを手渡していた。

 だが…

「あっ、あれは…」

 わたしは一瞬、見た…

 カクテルを浴びせる瞬間の彼女の右手を…
 彼女の右手の指輪を見逃さなかった。

 それは…

「えっ?、ま、まさか…」

 その右手の薬指には、華奢な指には似合わない、アンバランスな指輪を…

 細めではあるが、ごついデザインのクロームハーツのダガーリングがはめられていたのだ。

 クロームハーツのダガーリング…

 それは…

 あの夜の…

 駿の指にはまっていたリングだ…

 し、駿なのか?…

「ああっ、えっ」
 そしてわたしは思わず驚きの声を漏らし、立ち上がる。

「え、ま、まさか」

 まさか、まさか、あの彼女は…

 駿なのか?…

 いや、どこから見ても完璧な、完全な女性にしか見えなかった…

 そう、女性だった…

 だけどあの目は…

 あのクロームハーツのダガーリングは…

 あれは間違いなく駿の目、そして指輪だった…

 えっ…

 じゃぁ、あの彼氏の存在は何?…

「彩ちゃんごめん…」
 
 わたしは居ても立ってもいられなくなり、彩ちゃんにそう告げて、慌てて店を出る…

 いや、彼女の…

 駿の跡を追う…

 そして…

 ドキドキと昂ぶりも感じていた…





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