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ソルティビッチ

第1章 ソルティビッチ…

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 それから約一週間が過ぎ…

 遥か太平洋の南の海上に季節外れの大型台風が発生し、決して目には見えないのだが、空気の圧力がまた、わたしを疼かせてきていた。

 間もなく冬の足音が聞こえてくるというのに…

 そしてわたしは相変わらずにこの
バー『Bitch』ビッチのカウンターで仕事帰りに酒を飲んでいた。

「いつものアレね」

「はい、『ソルティビッチ』ですね」

 それは彩ちゃんのオリジナルカクテルの『ソルティビッチ』…

 見た目はピンクグレープフルーツジュースを使った『ソルティドッグ』なのだが…
『ソルティドッグ』はウォッカベースであるが、この『ソルティビッチ』はジンベース。

 ジンに女性的な色合いを強調するピンクグレープフルーツジュースをステアし、僅かだがドライベルモットを入れ、更に僅かにトニックウォーターもステアする…
 クセのある味のカクテルである。

 そしてその『ソルティビッチ』は…
 『クソ女』であるわたしをイメージして作られたオリジナルカクテルであった。

 彩ちゃん曰く…

 正に『クソ女』悠里さんにピッタリじゃないですかぁ…

「あ、お腹も空いたの…」

「腸詰めウインナーありますけど…」

「あ、それがいいわ」
 彩ちゃんはバーテンダーとしてだけではなく、料理もかなり上手なのだ。

「相変わらず料理しないんですか?」

「だってぇ、目の前に彩ちゃんはいるし、周りには飲食店沢山あるしね」

「悠里さんには理想的な立地ですよねぇ」

「うん、それに一階にはコンビニもあるしね」
 わたしの住むマンションの一階にはコンビニもある。

「そうですよねぇ、いつも悠里さん家の冷蔵庫の中はほぼ空ですもんねぇ」

「うんコンビニが冷蔵庫だからぁ」
 正に冷蔵庫は要らないのだ。

「うふホント、ビッチだ…」
 彩ちゃんはそう笑いながら料理を作り始める。

 すると…
 カウンターの端に男の子ってイメージの若い男性客が居たのに気付いた。

 このバー『Bitchビッチ』は、入口を入ると正面に逆L字型のカウンターがあるだけのバーであり…
 その正面右側に縦に三席、そして正面横向きに八席ある。

 わたしはそんなカウンターの一番右端側の三席の一番奥にいつも座っていた…

 そしてその男の子は、わたしからは一番遠い、左側端の席に座っていたのだ。




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