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覚えてないの…

第1章 覚えてないの…



「昨夜…ヤったわよね…」

 その電話の向こうから、やや苛ついた声で女が云ってきた。

「あ…う、うん………やった…」

「………もう…」
 女は電話口で何かをいじっているのか、ガサガサと音が聞こえてくる。

「まさか………」
 更に苛つく声。

 ヤベぇ、怒ってるわ…

「まさか…中で…」

「あっ、出してない、出してないからっ」
 ちゃんと避妊した…
 と、俺は慌てて告げる。

「そう…なら………」

 なら…

 ならば、なんだ?…

「はぁぁ……」

 そして女のため息…

 カチャ、シュボ、カチッ… 

「ふうぅ…」
 
 ん、タバコを吸ったのか?…

「なら……いい…わ…」

 しばしの間の後、女はそう呟き…

 プー、プー、プー…

 突然、電話が切れた。



 ドキドキしていた…

 やっぱ、ヤってまずかったか…

 俺は寝起きに掛かってきた昨夜の女からの、そんな電話に少しばかり動揺してしまう。

「ん…あぁ…」
 上体を起こし、手にあるスマホで時間を確認する。

 なんだ、まだ、午前10時じゃないか…
 そして『マールボロ』を咥え、ジッポーライターを探す。

 あれ、無いな…

 あっ…

 さっき、あの女の電話から聞こえてきたあの金属音、あれだ…

 くそ、あの女の部屋に忘れてきてしまった…

 どうするか…

 その内あの女が持ってくるか?…

 あの女が…


 そう、昨夜のあの女…



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