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冴ゆる月(Winter moon)

第7章 いい女…

 いい女② 

「だろう、間違いないよなぁ…」
「うん、多分…だけどそれが?」
「違ぇよ、俺の中では赤いアルファロメオスパイダーに乗る女の人は絶対にいい女な訳でぇ…」
「それはお前一人の思い込みだよなぁ」
「違ぇよ、まず、間違いなくいい女、いい女に決まってんだよ」
「なんで?」
「だってよ、じゃあさ、自分に自信の無い女の人が赤い外車のオープンカーに乗るか?」

「あ…うん…」

「だって、そこらにサァっと乗るだけで注目されんに決まってんだぜっ」
「確かにコンビニに乗り着けてきたら、絶対見るわなぁ」
「だろっ間違いなくいい女に決まってんだよぉっ」
「じゃこの店の中に…」

「うん、間違いなく…いるはずだ…」
 そう彼らは話し、おそらくは店内を見回し始めた様な気配がしてきた。

 そしてわたしはドキドキとしてきてしまう…
 なぜなら…
『アルファロメオスパイダーヴェローチェ』は、わたしの愛車だから…
 そして、彼らの視線がわたしの背中で止まり、痛い位に見つめてきたのを感じてきた。

 あ、ヤバい、見つかってしまった…

 あのクルマは…
 死に別れた元夫の遺産の愛車であり、わたし自身、散々壊れても直している思い入れのあるクルマなのだ。

『赤いスパイダーに乗って髪の毛をなびかせる女って、堪らないんだよ…』
 それが彼の口癖であった。

 だから、今も…
 髪を伸ばしている…

「………」
 彼らが、わたしの後ろ姿に注目しているのが、ヒシヒシと伝わってくる…

 ああ、ヤバい、どうしよう…
 絶対に振り向けないや…

 今日は仕事の移動中だからスーツ…
 昨日、美容院に行ってきた…
 化粧はさっき直したし…

『絶対ぇいい女に決まってんだよ』
 さっきの会話の言葉が脳裏にこだましている…

 こんなプレッシャーはいつ以来だろうか…
 もう書類整理も終わったし…
 ああこんな事なら社用車にすればよかった…

 夏の終わりの爽やかな風に当たりたかったから、敢えて自分の愛車にしたのだが
『薮蛇』になってしまった…

 どうしよう、立つに立てないや…

 自分に自信が無い…訳ではないが、果たして彼らの期待に添えられるのか?…

 背中が壁に…

 そして、カチカチに固まってしまう…


 どうしよう…

 これも…

 全部、夏のせい…


 もう夏も終わりだというのに…



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