素敵な飼い主様
第1章 1
すがるような瞳で彼を見ていると、
「お前の名前は?」
さげすむような、自信があるような声の調子でそう言った。
普段は、名前は言わない。
言ったとしても、本名なんて言わない。
けれど、コイツには、すべて見透かされるような気がしたのだ。
イヤ、手放すのが惜しいと思った。
「・・・紫苑よ」
「紫苑・・・ね」
サラサラの髪が揺れて、その毛先が頬を掠める。
爽やかな、いい香りが鼻腔を刺激した。
そして、少しだけ触れた唇が離れ、
「紫苑、アンタが気に入った」
呆然とするあたしを置いて彼は妖艶に微笑み、もう一度キスをしてきた。