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第6章 カウンセリング

そんなある日、たまたま僕の帰宅時間と沙耶香の帰宅時間が一致し、駐車場にほぼ一緒に入ってきた。

僕は、前回のこともあり話すチャンスなのにも拘わらず、心の準備が出来てなかった。気まずくて為沙耶香より先に部屋に入るため、速足で部屋のドアへ向かった。すると後ろから、

「谷川さん、ちょっといい?」

と呼び止められた。僕が振り向くと、ショートパンツにTシャツ姿の沙耶香がこちらに近付いてきた。

「ねー、見て!ここの溝、泥や落ち葉が溜まって詰まっちゃってる!雨が降ると溢れてるのよ!自分達で掃除しないとだめなのかな〜?」

と、この前の素っ気ない態度とは打って変わって、人懐っこい笑顔で話しかけてきた。僕は、

「本当だ!管理会社に言えばやってくれるのかな?」

と、言った。すると沙耶香は、

「そうね!私今度聞いてみる!」

と言った。僕の部屋にチャイムを鳴らしに来ていたあの頃と変わらない態度だ。この前とはまるで別人みたいだ。

僕は、意を決して、聞いてみることにした。

この前どこに行っていたのかを…。

「さやちゃん!この前、どこに行ってきたの?」

と聞くと、沙耶香は、

「え?この前って…。」

と言った。僕は、

「あの、スポーツジムに行くような格好で出かけた日…。」

と言うと、沙耶香は、とょっと考える素振をしてから、

「あー、あの日はカウンセリングだったの!」

と言った。僕は、驚いたのでそのままそれを口にした。

「カウンセリング?あんな格好で…?」

すると沙耶香は、

「変かな?あの格好が一番都合が良いのよね!」

と言った。僕には、言ってる意味が分からなかった。カウンセリングとは、そういう格好でするものではないはずだ。それに、カウンセリングの先生は、目が見えないという話だった。目が見えない人に会うのに、あんなにしっかりとしたメイクは必要ないと思う。

沙耶香の言うことは信じられなかった。



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