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paradise lost

第1章 overture


ピアニストの父とヴァイオリニストの母親の間に生まれた『俺達』…『俺達』は誰かに言われることなく、俺はヴァイオリンを、『アイツ』はピアノを始めていた。俺がヴァイオリンを弾く隣でアイツがピアノを弾く、それが『俺達』の全てだった。




「………う、こう…煌ッ!!」
「え?何?」
「え?何?じゃない…手止まってるぞ」
保護者兼バーのオーナーの嘉瀬 芳樹(カセ ヨシキ)の声で俺は物思いに耽け、カクテルを作っている手を止めていたことに気付く。我に返った俺はカクテル作りを再開する。
「煌が考え事だなんて珍しいじゃない?」
俺と芳樹のやり取りを見ていた常連のさおりが煙草を吹かしながらにやにやと煌の顔を覗き込む。俺は肩を竦めながらカクテルを完成させ、ウィンクしながらさおりに差し出す。さおりは俺の作ったカクテルを見て目を輝かす。
「どーぞ」
「キレイ…」
さおりはうっとりと眺めたあとカクテルを一気に飲み干した。それを見ていた俺は一気飲みして味が分かるのだろうかと首を傾げながらグラスを磨く。
「は~煌…アンタの作ったカクテル神だわ」
うっとりとしているさおりに俺は苦笑する。会話が途切れ、静寂が訪れる。芳樹は他の客にカクテルを作り、さおりは物足りなさそうにグラスを眺めている。穏やかでゆっくりとした時間が流れる。
「……ねぇ…煌」
「どうかしましたか?」
静寂を終わらせたのはさおりだった。さおりはカウンターに体重を預けながら俺を見上げる。
「あんたってなんで恋人作らないの?」
またその話題か?と俺はうんざりしながらグラスを磨く。
「………作りませんよ、第一モテませんし」
「あんたほどの良い男がモテないわけないじゃない」
謙遜する俺に、さおりはカウンターから乗り出しながら大声で否定する。さおりの剣幕に俺は面食らう。さおりの大声に店内の客の視線が俺とさおりに集まる。
「さおりちゃん、落ち着いて」
騒ぎを聞きつけた芳樹がさおりを宥める。さおりは少し冷静になって恥ずかしそうに小さくなった。それを見た芳樹は視線を俺に移した。
「今日も遅くまで付き合わせて悪かったな、煌…明日から学校だろう?今日は上がって良いから帰って明日に備えろ」
芳樹は優しい声で俺を労った。
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