デリヘル物語
第3章 take3
玄関に入るなりあけみさんは強引に僕の身体を壁に押し当てて「あら、もうこんなに大きくなっちゃって、いけない坊やね」そう言いながら、気がつくと、右手で僕の股間をゆっくりさすっていたんだ。
いきなり過ぎるその展開に、僕は何も出来ずにただ壁にもたれて立っていたんだ。
するとあけみさんが僕の眼鏡を外し始めて、僕はとっさに目をつぶった。
それから自分の唇に生あたたかい吐息と唇のやわらかさを感じて、思わず股間が…………と、その時だった。いつもの、あの感覚が僕を襲ったんだ――でも、残念ながら、その感覚がどんな感じなのかを伝える術を僕はまだ知らない――それからピンポーーンっと言うチャイムの音が響き渡った。
僕は部屋のおよそ中央にいた。そしてそこで座禅をくんでいた。
時計を見ると、『21:00』と言う数字が文字盤に写っている。その上の日付もやはりあの日付だ。
やっぱり今回も僕はデリヘルを体験する事が出来ないんだ。
――と、あの時またしてもそう思ったんだ。だからゆっくりと僕は立ち上がると、諦めムードを軽く通り越して、もはや、これから出社するサラリーマンがさらに出社したとたん上司に呼び出されて、それからリストラを宣告されるような、そんな重たい気分で玄関へと向かったんだ。
おまけに心臓の鼓動は普通過ぎて、と言うより、その時はむしろバラード並に静かで、だからそれもまた追い打ちをかけたんだ……こんなテンポじゃ、だめだ。僕の、夢が……最高のドラ厶として『フジロック』にデビューする夢が、これで儚くも潰えてしまったんだ……。などと、とてつもなくブルーな気分にもなっていたんだ。
玄関に着くと、ドアノブに手をかけてなんの感情も持たないまるでダッチワイフのように僕は扉をあけた。
すると、玄関のすぐ外には見たことのある男が――そうだ、確かこの男は……谷崎俊樹――が立っていた。
谷崎は、僕と目が合うと、とんでもなく奇妙で不可思議な事を言ったんだ。
「やあ、また会ったね、高橋くん」
「えっ、またってどういう……」
「いや、すまない、きみが驚くのも無理はないよね」そう言って、谷崎はあのいつもの笑顔を僕に見せると「ところで、高橋くん、あの雑誌は気に入ってくれたかな」と言った。