デリヘル物語
第5章 take4.1〜
「やはり既に始まっているのか……」どこか遠くの方を見つめて谷崎は言った。
僕は谷崎にいい返した。「でも、何も起こってないっよね、まだ」
谷崎は僕に視線を戻すと「いや、高橋くん。今回は、きみがそう思うほどにわかりにくく時間が既に巻き戻っているんだよ」と言った。
谷崎のその言葉に、とっさに自分の左腕に巻かれた時計を見た。
『21:02』
確かに、時間は戻っている――。
僕は時計を見て固まっていた。すると谷崎が冷静な口調で言った。「高橋くん、このままだと下手したらループが閉じてしまうかもしれない」
「ループが閉じる――ってどう言う事ですか?」
「おそらく、このままいけばループする時間の間隔が徐々に減っていくんだ。そしてそれはある一定の時間で落ち着くが……」そこまで言って、谷崎は険しい顔で黙り込んだ。
でも僕は谷崎に尋ねた。「一定の時間で落ち着いて――それからどうなるんすか?」
「俺達はそのループから出られなくなる」
「まさか、そんな事って」
「しかしな高橋くん――不安を煽るようで悪いんだが可能性はそれだけじゃないんだ」
「えっ、まだなにかあるんすか?」
「ああ、可能性はもう一つある。ある一定の時間でループが止まらなかった場合だ」
「止まらなかった場合……と言う事は、まだもっと時間が短くなっていくって事ですか?」そこで僕はふととてつもなく悪い予測に襲われた。
「でも、まさか……。そんな事、ありえないっすよね、谷崎さん」
「いや、高橋くん、残念ながらきみの思っている通りだ。もう一つは、ループの時間がこのままどんどん短くなっていって……それからゼロになってしまう」
「やっぱり……。じゃあ、もしもループの時間がゼロになってしまったら……」
僕はそこで息を飲んだ。その先に聞こうとしていた質問が言葉となって出てこなかったからだ――だから僕はその時、言葉を振り絞るように谷崎に尋ねたんだ。
「谷崎さん、ループの時間が……ゼロになってしまったら――どうなってしまうんすか?そのままループが終わるってパターンはないんですか?それとも……」
それでも、やっぱりそれ以上の言葉は、僕の口からは出てこなかったんだ。