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【お題小説】さいごのねがい(4ページ完結)

第1章 「色の無い世界」

そこからはトントン拍子だった

大ヒットしたスーパーヒーロー映画は3部作になったし、敵役のボクが主人公のスピンオフ映画まで作られた!


新しく出来る遊園地のアトラクション用の撮影もあって、ボクは2回目のピークを迎えた


それもこれも、


若い時からボクを支え続けてくれていたファンのおかげなんだ


今でこそ男性ファンも多いけど、女性ファンのみんなはほとんどが若手時代からの支援者たちさ


だからボクは彼女たちにとても感謝しているよ


だってゾンビになってしまっても会いに来てくれるんだから!


廃墟となったかつての撮影スタジオの一角で、撮影用のチェアに腰掛けたまま動けないボクの姿は訪れてくれたファンのYouTubeのおかげだ


あれからというもの世界中からボクに会いに来てくれるんだ


ボクの片脚はゾンビになってしまった直後に、まだ人間だったディレクターに抵抗されて折られてしまった


ボクはあれからこのチェアから立ち上がれない


何ヶ月もここに座ったままなんだ


人間のままだったらとっくに朽ちていただろうな

ゾンビになっていたからボクは今でもかろうじて意識がある


言葉も話せなくなったし、腕も震えている

視界は単色な世界になってしまったけど、それでもまだボクはこの世界に留まっている


あれから数ヶ月、今となってはボクに会いに来てくれる人間はおろか、泣き叫びながらゾンビたちに襲われている人間も見なくなってしまった


もう地上は人間の暮らせない世界になってしまったんだろうな


いま目の前に来てくれた彼女

花束をボクの目の前のテーブルに捧げてくれた彼女は、一定の距離を保ちながらボクに語りかけていた


返事が出来なくてすまないね
ボクはもうしゃべれないんだ


彼女は熱烈なファンだったらしく、ゾンビになってしまったボクでも目を細めて慈愛に満ちた優しい眼差しで見つめてくれた


返事は出来ないけど、話しは聞いてあげられるよ


彼女はどれだけボクに会いたかったかを語ってくれていた


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