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お題小説 カレイドスコープ

第1章 kaleidoscope

 12
 
 心の中がまるで激流の様に揺れ、揺らぎ…
 そのまま茉優を強く抱き締める。

「は、勇人…
 ずうっと会いたかったの」
「お、俺も…」

 そう俺もずうっと前から…
 あの事件に巻き込まれ、解雇通知を受けた時、なぜか心に浮かび感じたのが…
 茉優の顔と存在感であったのだ。

 あの時は32歳…
 もう茉優と別れて既に14年も経っていたのに、なぜか茉優の存在感が思い返されたのであった。

 高校を卒業し東京の大学入学の上京と共に茉優とは自然消滅の様に別れてしまった…
 俺は東京の大学生となり、茉優は地元の市役所に父親のコネと希望があって入所した。

 そしてそれは大学生と社会人1年生というカベを作り…
 いや煌びやかな大都会の喧騒と誘惑に憧れ、そんな青春の想いの海に自ら飛び込み、潜り、溺れていったのだ。

 つまりそれは田舎を捨て、都会を選んだ…
 という事であった。

 つまりは茉優を捨てたのだ…
 そして大都会東京は自分に合っている…
 そう思い込んでいたのである。

 普通に大学生時代には彼女が出来たし、なんとか順調に建築士の資格も取得でき…
 当時の夢であるゼネコンといわれる大手建設会社に無事に就職が出来たから。

 だからすっかり茉優という存在は忘れた、いや、田舎という存在と共に過去へ捨てたと思っていたのだ。

 しかしなぜかそれは違ったのである…
 解雇宣告され…
 それに伴い当時の彼女に三下り半を突き付けられ…
 それがきっかけに今まで全てか上手く順調に進んでいた筈の人生という歯車がズレ、狂い、噛み合わなくなった時…
 つまり一気にどん底に落ちた時に脳裏に浮かんだのが、この茉優の存在感であった。

 だが捨てたと思っていた茉優という存在に、今更、どのツラ下げて会えるというのか…
 それに38歳なのだ、とうの昔に結婚をしているであろう筈に違いない。

 会える筈が、今更会える資格も無い…

 そして再就職もままならずに、ますます人生の迷宮に墜ちていき…
 また未来を絶望し、その反動であろうか、過去の青春の思い出がより眩しく、煌びやかに感じられ、そして、自らその過去の思い出を自虐し、心の奥底の片隅に封印し、閉じてカギを掛けた筈であったのだ。

 だが、その、断腸の思いは…
 茉優との偶然の再会と共に…

 呆気なく開き、崩れてしまったのだ。


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