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お題小説 カレイドスコープ

第1章 kaleidoscope

 19

「そ、それよりわたしは?」
 そう問い返してきた…

「茉優は全然変わってないよ」
 そんな事を茉優に問い返させたくなかったから…
「あの頃の、あの時の、あの刻のままに変わってなかったさ」
 そう先回りして応えた。

「え、本当、そ、そう?」
 嬉しそうな声…

「まさか俺も今夜会えるとは思っていなかったけど、もう少しで来るって訊いて本当にドキドキしていたんだよ」
「そ、そうなんだ…」
「変わってなかったし、なんか昔よりも…
 キレイになってる」
 恥ずかしかったが本音である。

「え、や、う、うそ…」
「本当さ、びっくりしてドキドキしちゃったんだよ」

 そう、俺が知っていた茉優…
 最後の茉優は20歳、だが今の茉優は38歳…
 さすがに若さは衰えつつあるだろうが、それを上回る色気と艶気の魅力に溢れた美しい大人のオンナになっていたのだ。

「ほ、本当?」
「あぁ、いいオンナになってる」
「うわぁよかったぁ、よかったわぁ、嬉しいわぁ…
 だってさ、もし勇人に気に入ってもらえなかったならさぁ…
 身も蓋もなくなっちゃうから」

「うん、そうだよな…」
 そして俺は急にさっき云われた言葉を、いや、茉優からの告白を思い浮かべてしまう。

 さっき云われたその告白、それは…

『だったら勇人が、勇人とまた仲良くなって…
 お嫁にもらってほしいの
 いや、お婿さんかもしれないけどね…』
 
 いや、本気なのか、マジなのか?
 
「だからね、わたしね、勇人を見た瞬間にホッとしたのよ…」

「え、ホッとしたって?」

「実は結構前から、ううん、父親がお見合いだの再婚だのの話しを言い出してくる度にさ…
 本当にマジでさ、勇人との話しをずうっと考えて思ってきていたのよ」

 ……だからわたしの好きだったあの頃のままの変わらぬ勇人の姿を見た瞬間、本当に、マジで嬉しかったのよ…
 と、一気に話してきたのだ。

「だってさぁ、万が一勇人が嫌なタイプに変わっちゃってたらさぁ…
 百年の恋も一気に醒めて、全部がパァになっちゃった筈だしさ」

 やはり再就職と再婚はワンセット、そして茉優にとってはワンチャン、いや、ラストチャンスなのかもしれない…

 その時、真夏の湿った涼しい夜風が…

 ザザザザーー
 音を鳴らして吹き抜けていき、この大銀杏の拡がっている枝葉を揺るがしていく…

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