テキストサイズ

Kalraの怪談

第19章 十九夜目:振り向くな

そして、ついに最後の一人も
「ダメだ!・・・うわあ!!」
じゃりじゃりじゃり・・・と石の上を引きずるような音を立てて、最後の一人も引きずられていくのがわかりました。

Aさんは必死に新館まで走りました。次はその「何か」が自分にも襲いかかるのではないかと思い、死にものぐるいでした。途中で何度か転びそうになりながらなんとか新館にたどり着き、仲間たちがいる部屋に戻ったのです。

部屋では、必死の形相で戻ってきたAさんを残った4人が不思議そうに眺めていました。

Aさんは、他の三人が「何か」を見たこと、
その「何か」に三人が旧館に引きずり込まれたこと、
自分はそこから必死で逃げてきたこと、
などを、息も絶え絶えに説明しました。

ところが、新館から旧館を見ていた4人は「これから入るぞ」の合図のあと、しばらくして、突然Aさんがこっちに向かって走ってきたことしか見えなかったと言いました。
旧館の入り口は木立に隔てられ、なんとなくは見えるもののはっきりと何が起こっているかわからないということでした。

とにかく、Aさんとしては二度と旧館に近づきたくなかったし、それでも仲間は気になるしで、どうしようかと思案したのですが、三人を探そうと先生に言うわけにもいかず、結局、彼らが悪ふざけをしたのだろう、そのうち戻ってくるだろうということに話は落ち着き、寝てしまうことにしたそうです。

次の日の朝、三人が何事もなく戻って来ていることを期待していましたが、戻ってきていませんでした。さすがに隠しておくわけにはいかず、先生に昨夜、肝試しをしたこと、三人が旧館に入っていったことなどを言ったそうです。この時、引きずり込まれたーというのは信じてもらえないと思って言いませんでした。

三人が戻ってこないことを心配した先生が数人で旧館に探しに行ったところ、旧館二階の奥の客室で、三人が並んで首を吊っているのが発見されたのです。

Aさんたちは、なんだかんだと事情を聞かれましたが、当然『夜に肝試しをした』『Aさんだけが帰ってきた』以外のことは話すことができず、最終的には、三人は受験を苦にして発作的に集団自殺をしたーということにされてしまったそうです。

この夏の事件があって以来、その高校のサッカー部は廃部になったとのことでした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ