
悪いオンナ…3
第1章 【癒しの彼女には両想いの彼氏が居て……】
全速力で走った
道も覚えてる
ホテルだけを見つめて
1分1秒でも早く、キミの元へ………
ずっと沼の底に居るような感覚だった
何もかも籠もって聞こえるし、光も感じない
笑ってみせても土みたいに固まって
顔が戻れてないんじゃないかって錯覚までする
何を喋っても砂を噛んでいるかのような……
彼女に再会して嫌というほど痛感した
足りてなかったピースが、
止まっていた時計が、
色を無くした目が、
一斉に戻っていく………
息を切らしてエレベーターに乗ったもんだから
一緒に乗り合わせた人は驚いていただろう
目的の階に着いて降りたら、落ち着いたつもりが
急激に緊張してきた
彼女の事だ、もう違う誰かを呼んでいるかも知れない
僕じゃない誰かと一緒に居る…?
ドアの前に来て、チャイムを鳴らす
音沙汰なくてノックした
「彩花ちゃん」
小さくそう呼んだら扉が開いて
バスローブ姿の彼女が見えた
シャワー浴びた直後っぽい
「え……亮くん?なんだ、もう来ないかなと思ってた」
「えっと……」
「おいで」
「あっ…お邪魔します」
手を引かれて中に入ってしまう
目のやり場に困るくらい色っぽいんだよ
「まだ目を逸らすの?」ってズルい言い方
目を合わせたらこの笑みだもん
完全に、負けだよ……
「遅かったね、たくさん葛藤してくれたんだ?」
「………うん」
「覚悟、出来た?」
情けないけど首を振った
正直、わかんない
でも……走って来た
このモヤモヤが何なのか知りたくて
眉をハの字にして「出来てないのに来たの?」って笑う
両手を握られて「会いに来ちゃったんだ?」と覗き込まれる
黙ったまま、頷いたらギュッと握る手
