
微熱に疼く慕情
第10章 【囚われない愛と持続的な関係】
仕事が終わって早々と車で拉致された
こんな強引な事はなかなかない
どうして…?
そう聞きたいのに横顔から何となく察しがついた
いつも急で、彼氏を納得させるのも一苦労なんだよ?
なんて、全然頭にないんだろうな
彼氏が残業で助かった
あの人も居ない
2人きりに前なら心が浮き立っていた
でも今は少しの緊張が入り混じる
会社からそう遠くないところに呼び出されて、
私を見つけると言葉もなく今に至る
怒ってる…?いや、違う
何の沈黙かわからない
着いたシティーホテル
置いていかれないようついて行く
手も引いてくれないよ…?
イライラが伝わってくる
やっぱり機嫌が悪い?
部屋に入ったら何されちゃうんだろう
鍵を受け取った背中を見つめていると
ようやくこっちを振り返って真っ直ぐ目が合うの
え、帰りたい………
初めてそう思った
だって怖いよ
きっと無理やりされちゃう
近付いてきた足の分だけ後退する
「一華?」
呼ばれて嬉しいはずなのに俯いた
消え入りそうな声で「帰る」って言ったの
ヤバい、泣きそう、もうわかんない……
「ごめん!怖がらせたか?」
「え…?」
手首を掴まれてビクッとしたけど、声がいつもの優しい感じだったからハッとした
ようやくまともに会話が出来た
焦ってる姿にアレ?ってなって、
「あ〜俺もうどうしたら良いかわかんない」と抱き締められた
フワッと掠める甘い香り
大好きな人の香り
「ごめん、緊張し過ぎて一華を置いてきぼりにしてた」
「ど、どういう事ですか?」
「怖がる事はもう絶対しないって約束するから、とりあえず部屋まで来てもらって良い?」
「……はい」
え、何だろ……
私も動揺してるけど、明島さんの方が動揺してて
それはそれでレアな姿で
優しく手を引かれてエレベーターに乗った
