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小さい王さま

第7章 7・精霊王のさいご

 泉についた鼠は、精霊王の寝台の横にかがみ込みました。

「精霊王さま、月の花を取ってきました。これを飲んで病気を治してください。そしてこれからも、僕たちをお守りください」

 鼠が月の花を差し出すと、精霊王はゆっくりと寝台の上に身を起こしました。

「おお、鼠よ、ありがとう。さぞ苦労したことだろう。しかし、月の花では私はよくならないのだ」

「どういうことですか? 月の花には、どんな病気も治す力を持っているのですよ」

「そうだ。だが、私の具合が悪いのは病気のせいではない。だから月の花があっても私の具合は良くならないのだよ」

「病気でないなら、なぜ具合が悪いのですか」

「うん。はじめに言っておくべきだったかもしれない。私の体がすぐれないのは、もう命の終りが近づいているからなのだよ。生きるものは必ず死ぬ。それは私も変わらないのだよ」

「ええ!」

 驚いたのは鼠だけではありませんでした。みんなが声をあげ、そしてざわざわとささやきあいました。精霊王がなくなってしまうかもしれないという不安と寂しさが、月の花をとってきたことでなくなると期待したのに、その期待がやぶれてしまったですから、心が揺れていたのです。

 どよめく動物たちに、精霊王はさいごに言いました。

「月の花は大切に育てておくがいい。これから先、誰が病気にかかっても怪我をしても、それを癒せるようにな」

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