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磯撫デ

第1章 ひとつ目のお話「海に招かれる」

夏も近づいたある日、私は友人のK実から都内のカフェに呼び出された。K実は大手の出版社に就職したものの早々に退職し、フリーのジャーナリストになった変わり種であった。しかも、扱ってる分野が特殊で、いわゆる都市伝説とか怪異譚とか、要はオカルトやホラーに分類されるような事柄だったのだ。私が『やめろ』と言ったにも関わらず、名刺には「怪談ジャーナリスト」という極めて怪しい肩書を印刷していた。

『いつか、◯◯先生のようなホラー作家になる!』

というのがK実の口癖であった。ちなみに◯◯とは、K実が最近ハマっているホラー作家だった。1年くらい前は☓☓先生と別の先生の名を挙げていたような気がする。飽きっぽいのはK実の問題点でもあり、同時に魅力でもあった。

その飽きっぽいK実であったが、ライターとしての仕事はそこそこあるようだった。それでも、食べるために仕方なく、あまり好みではないガジェット紹介や紀行文、食べ歩き記事なども書く必要はあるみたいなので、フリーライターというのもなかなかに大変な仕事なのだろうと思う。

『大きなネタを見つけたんだ!』

その日、K実が開口一番私に言ったのはそんな言葉だった。明日から東北のとある県に取材旅行に出るということだった。

こんな感じのK実だが、私とはとても気が合っていた。というのも、私自身も怪異譚とか怪談話が好きだったからだ。私自身は特に怪奇譚蒐集家を標榜しているわけでもないのだが、私のもとには色んな人が怪異の話を持ち込んでくるので、自然とそういう話を多く知ることになる巡り合わせにある。

K実から知らない怪異譚を聞くこともあるし、私が聞いた怪談をK実に『提供』することもある。色々書いたが、要は互いに怪異好きの変わり者、というわけだった。

K実が言うには、今度のネタは海に関わることだという。

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