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磯撫デ

第5章 みっつ目のお話「K実の体験談」

7月13日日曜日の朝方5時に、K実からの通話履歴があった。最初はメッセージアプリで、次は通常通話だった。私は通常通話にあっては留守番電話設定をしているので、自動的に留守録になる。

以下は、その留守録の書き起こしである。

注:書き起こし文中の「◯◯」とは、私の苗字である。

☆☆☆
◯◯?・・・ああ、こっちもダメか。
急ぐのに・・・しょうがない、ねえ、一応吹き込むから、これ聞いたらすぐに電話頂戴。

手短に言うね。昨日、夜、私、『磯撫デ』に遭ったの。
午前1時くらいかな、目を覚ますと、さっとホテルの窓の外が何度か光って、最初、雷かと思った。

で、あの話思い出して、カーテンから覗いてみたら、海に向かって歩いている人がいて、私はそのまま海岸に降りたの。

砂浜に降りた時、その人影はふらふらしながら海に入っていって、慌てたもんだからカメラもケータイもなくて、写真撮れなかったんだけど、本当にいて

あまり海に近づいたら私も「引っ張られる」と思ったから近づかなかったんだけど、ドン、って音がしたかと思うと、急に足元を何か強い力で引っ張られてズルズルと海に引っ張り込まれたんだ

海に引きずり込まれて、何かが身体中に絡みついて、私、夢中でもがいてもがいて
そしたら急に身体がフッて楽になって、気がついたら、海に浮かんでいた。

見回すと、随分沖まで来ちゃってたんだけど、なんとか岸まで泳ぎきったんだ。

ねえ・・・〇〇・・・
これヤバイかな?ヤバイよね?

明日には帰る予定だけど・・・どうしよう、意見聞かせて、ねえ、〇〇!

それから、

(音声録音の限界が来てここで終了)

☆☆☆
私はこの日体調が良くなくて、お昼まで眠っていた。なので、K実のこのメッセージに気がついたのは午後3時を回っていた。

慌ててK実に連絡を取ろうとしたが、電話は繋がらなかった。

それもそのはずだ。この時点で、K実はすでにこの世にはいなかったからである。

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