アシスタントで来ただけなのに…!
第1章 鬼才漫画家、市川ルイ
__数日後
アイロンをしたシャツの上から黒いジャケットに腕を通す。
黒いパンプスを履いて、入念に中身をチェックした鞄を手に取り、深呼吸をした。
「…よし、ばっちり」
玄関にある姿見で頭から爪先をチェックして問題ないことを確認した。
「加奈子ー!」
母が廊下から急ぎ足で来た。
「…はい、お弁当」
「え、いいのに。終わったらすぐ帰ってくるよ」
「いつになるか分からないでしょ。持っていきなさい」
花柄で包まれた母のお弁当を手に取る。
母を説得するのには時間がかかった。
それもそうだ。だって詐欺かもしれない。
それは私だって頭の片隅で思っている。
だけど、本当に憧れの市川ルイかもしれないと思うと、会いたくて仕方がなかった。
だから必死に説得した。
何かあればすぐ連絡すると強く伝えて、なんとか乗り越えたのだ。
もうほぼ呆れた様子だったが、娘の夢を応援したい気持ちもあるのかもしれない。
「…お母さん、ありがとうね」
「何よ今更。ほら、電車間に合わなくなるわよ」
「そうだね、よし!」
私は腕時計を確認して、母に向かってにこやかに言った。
「お母さん!行ってきます!」
ガチャっと扉を開けて晴れた空の下に出る。
「加奈子ー!いってらっしゃい!」
最後に母に手を振って扉を閉めた。
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