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『春の雪』

第1章 春の雪

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「あら…」
 入学式が終わり、体育館を出ると…
 まだ雪は舞い、うっすらと白く積もっていた。

「では、各クラスに移動してくださぁい…」
 そう案内され、発表されたクラスの教室に向かう。

 数十年振りの小学校の教室…
 机、椅子の小ささ…
 黒板の色…
 どことなく漂うチョークの匂い…
 思わずノスタルジックに耽ってしまう。

 そして期待にきらきらと目を輝かせる子供たちの煌めく目…
 今までの苦労が洗い流され、清められるようである。
 
『でもね、本当に色々大変になるのはこれからよ…
 ましてやシングルなんだから…』
 先輩ママでもある親友が、そう言ってきた。

 だけど、今は、この幸せな時間に浸りたい…
 そしてこれから始まる明るい時間に期待したい…
 わたしはそんな思いを巡らせ、親達の一人として後ろに並び立つ。

 そして、並ぶ同級生となる親達を一チラと瞥すると…
「あ…」
 そこに知った顔が…
 彼も、驚いた目を向け、わたしを見ていた。

 急に胸がドキドキと高鳴り…
 ザワザワと騒めいてくる…
 そして、見つめてくる彼の目にも、戸惑いと、騒めく光が浮かんで見える。

「あ…」
 そんな、なぜ…
 なぜ、ここでの再会なの?…
 指先が震え、息が浅くなってしまう。

 だが、周りには同級生の親達が並んでいるのだ…
 わたしは、その数年振りに、いや、八年振りに再会した元カレに小さく会釈する。

 さすがに無視する訳にはいかないから…

「………」
 すると彼は、わたしに小さく左手を上げ、会釈を返す。

 あ…
 その上げた左手の薬指には…
 あるはずのモノが…
 そう、わたしが欲しくて、欲しくて堪らなく、あれほどに心を狂わせた、あの存在がない。

 え、ま、まさか、そうなの…
 彼も…
 シングルなの?…
 
 わたしは無意識に彼の横に並び立ち、呆然とそんな思いに耽け…
 新しい門出に緊張している、たくさんの小さな背中を眺めながら…
 あの幸せで、苦しくて、狂おしかった、あの昔の焦れた思い出を逡巡していく。

 そして時折触れる彼の肩の温かさや、懐かしい匂いに心がを揺らがせてしまう…

「はーいっ」

 その時…
 担任の先生の問い掛けに、明日からの新生活に、明るく昂ぶる子供たちの返事が聞こえ…

 わたしは、ふと、我に返った。


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