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『春のうつろい』

第9章 春爛漫(はるらんまん)

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「うわぁ、なんてキレイなのぉ…」

 わたしは後輩くんからの夜桜デートの誘いにOKし…
 会社から近くの公園に来ていた。

 そして、この煌めく夜桜の美しさに、思わずそんな声を漏らしてしまう…

「そうっすね、ヤバいっすね」
 そして、そんな感嘆のように、公園の桜は満開であり…
 チラホラと風に舞い…
 夜桜用のライトアップが美しい。

 それに、なんといっても平日にも関わらずの
 屋台の匂い…
 花見酒の酔いの賑わい…
 そして沢山の花見客の人いきれに…
 さっきまでの一瞬の戸惑いや、揺らぎ、それにわたし自身の迷いなんて、どこかに消えてしまった。

「あ、お好み焼き、焼きそば、それにりんご飴、買いましょうよぉ」
 わたしはテンションが上がり、いつの間にかに彼の手を引き、屋台を巡っていく。

 そして…
「あ、あそこ、あそこで食べようか」
 少し離れた小高い丘があり、わたしはその芝生を指差し、小走りしていく。

 その小さな丘には、まだ三分咲きにも満たないしだれ桜があり、その根元に座ると…
 眼下の花見客達の饗宴的な宴の様子が見下ろせる。

「あら、ここは意外と静かね」

「そ、そうっすね…」

「じゃ、とりあえずカンパイね」
 と、わたし達は缶チューハイで乾杯し、屋台で買った品々を広げていく。

「あぁ、なんか楽しいわぁ…
 こんなに楽しいのなんて久しぶりだわぁ」
 遠くの桜並木から、花見客の歓声が夜空に響いていた。

「え、そうなんすか」

「うん…」
 わたしは、行き交う花見客を見ながら頷く。

「うん、いつ以来だろう、久しぶり…」

 すると…

「あ、か、彼氏さんとは?」
 
「え……」

 わたしは、その問い掛けに…

「…………」
 応えようが…
 いや、答えられない……

 そして一瞬にして…
 ホテルで待っているだろう、彼、課長の顔が浮かんできていた。
 
 ブー、ブー、ブー……

 その時…

 わたしのスマホが着信する。



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