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『春のうつろい』

第9章 春爛漫(はるらんまん)

 6

「せ、先輩……す、好きっ……す…………」

「………………」

 心が震える…

 そして、この甘い言葉に…
 淡い、満開のソメイヨシノの香りに…
 触れる指先の温かさに…

「ぁぁ………」
 心とカラダが…
 ゆっくりと、溶けていくようだ。

 ブー、ブー、ブー………

「あっ…」

 再び、スマホが着信する…
 それは、彼からの焦れ切った苛立ちの鳴動。

「……………」

 だが、わたしは…
 今度はバッグを手に持ち、中から震えるスマホを手にし…

 ブ………
 電源を切った。

 それは、彼、課長との関係の断ち切り、終わりを意味し…

「あ………」
 
 見つめる後輩くんへの…

 答えでもある。

 そして、触れる彼の左手薬指の感触を確かめながら……

 今度は…大丈夫………。
 

 春爛漫の満開の桜の花びらが、緩やかな春風に舞い…

 そして、まだ三分咲きのしだれ桜の枝葉が優しく揺れ…

 ふと夜空を見上げると、満月直前の十三夜の月が、蒼く光っていた。


 それは、まるで、これからの…

 ううん、今夜からの新しい恋の予感を伝えてくれる…
 満ちていく月。



 明日からは四月…

 そして、全ての新しい、始まりの時………。


         


            『春爛漫』終。





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