テキストサイズ

春のほどけ…戻れない距離

第3章 「皐月」—満ちていくもの

 3

「ねぇ、弥生、来週の授業参観にさぁ、何、着ていくぅ?」

 めいは、わたしの胸にうずくまり、上目遣いで、そう話してくる…

「え、あ、授業参観かぁ…」

「ほらぁ、初めてだし、他のママ達もさぁ、頑張ってきそうじゃん」

「え、そうなの…」

「そうに、決まってるでしょう…
 もお、弥生は、すっかり油断してんだからぁ…」

「…………」

「ほらもう、晴れたら暑いくらいだしぃ…
 春モノじゃなくてさぁ、初夏用にさぁ…」

「あ…」

「そうだ、今から、ショッピングに行こうよ、ついでにランチしてさぁ」

「うん…」

「あ、でも、夜勤明けだから、眠い?」

「………ううん…」

 わたしは、首を振る。

「やったぁ、じゃ、お出かけしましょ」

「うん…」

 めいは、嬉しそうに声を上げ、カラダを起こす…

「あ、あら…」

「え……」

 すると、めいの目が、右肩に留まった。

「…………」

 目は、逸れずに…

「あ………」

 わたしは、固まり…

「あ、紅い………」

 騒つく。

「え、あ、ぶ、ぶつけた……の、かな?」

 噛み痕―――

「え…あ、そうか……」

「うん………」

 めいの目が、一瞬、揺らぐ。

「さ、着替えましょ…」

「……………」

「あ、弥生、お化粧は?」

「あ、うん、じゃ、少しだけしようかなぁ」

「着替えは、このままでいいの?」

「え、どうしよう…」

「わたしの服、貸そうか?」

「…か、借り…よう…かなぁ………」
 
「うん、それがいいわよ…だって…なんか…」
 
「え……」

「なんか、今日の弥生…
 タバコの匂い……するからさ………」

「っ……」

 指が、震える。

「うん、なんか、臭う……」

 めいの、目が…

 逸れない―――



ストーリーメニュー

TOPTOPへ