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春のほどけ…戻れない距離

第3章 「皐月」—満ちていくもの

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「弥生さん、最近、変わったね…」

「えっ」

 ドキッとした…

 それは、めいにも、云われたから―――


「ふぅぅ……うん、変わったよ…」

 紫煙が、ゆっくりと漂い、流れ…

「か、変わったって?」

「え、あ、うん……色々……かな………」

 そう呟き…

 いや、彼も、緩く、変わった…

 もう冷たくなく、逸れてこない―――

「もう……ひと月に、なるしね………」

「…………」

 本当は、分かっていた。

 逢うたびに…

『罪悪感』が薄れていくのを感じ…

 逆に…

 ヒリヒリとした昂ぶりが増してきて……

 疼きには抗えず…

 二人の間を泳ぎ…

 逆に、求める自分を、自覚し始めていた。


 そして…
 
 めいの、わたしを見つめる、逸れない目に、悦びを感じ…

 もう、戻れない―――



「ね、もっと強く…」

「え…」

「もっと強く………噛んでよ…………」

「あ、え…で、でも……」

「別に…いいじゃない……
 ほら、もっと、はっきり、紅くさぁ………」

「………………」

「それに、もっと、紫煙を吹きかけてよ……」

「え………」

「あなたの匂いが、もっと、臭くなるようにね……」

「……………」

「うん…ほら…
 めいに、はっきり、分かるようにさぁ……」

「……………」
 
 タバコを摘まむ指が、震える…

「いいじゃない…
 本当は、そうしたいんでしょう……」

「……………」

 彼の目は、逸れ、揺らぐ…

「さぁ、強く噛んで、もっと、紅くして…」

「…………」

「もっと…臭くしてよ……」

「…………」

「三人、仲良くさぁ………」


 もう戻れない―――


「ほら、もう……夏だから…………」

 
 わたしも、もっと…

 もっと…

 満ちていきたい―――
 

 皐月来て
 抑えきれない
 熱だけが
 すまし顔さえ
 崩れはじめる


               終り



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