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春のほどけ…戻れない距離

第1章  「弥生」—はじまりの揺れ

 1

「ねぇ、弥生じゃない、弥生だよね…」

 その突然の再会は、思っていたよりも静かだった―――

「えっ」
 わたしは、その声に振り返る。

「ほら、わたしよ、わたしっ」
 その目を見て、一瞬、呼吸が止まった。

「え…あ……あぁ、め、めい……なの?」

「うん、そう……めい……」

 めい…
 五月生まれだから、May…めい―――

『ま、さつき、よりマシだけどね』

『じゃあ、三月生まれだから弥生なの?』
 そんな、懐かしい会話が、甦ってくる。

 懐かしさはあった…
 けれど、それだけで終わるはずだった。
 
 名前を呼ばれ、記憶が甦ったとき…
 胸の奥が、じわりと揺れた。

 いや、違う…
 激しく、震えたのだ―――


「うわぁ、懐かしいっ、何年振りぃ?」

 あぁ、この、めいの明るさ…
 昔の、ままだ、変わらない。
 
「え……あ、うん、高校卒業以来だから…」

「きゃぁ、じゃぁ、10年、あ、違うか…」

「うん……と、12年よ……」

「ホントは、分かってますよぉ…
 ただ、認めたくなかっただけぇ……」
 本当に、この明るさは、変わらない。

「うん…」

 わたしは、高校一年生の時…
 ある罹病により、留年してしまった。

 そして、それから同級生となり、親友に…

 ううん………

 それが、この、めいであった。

「マジ、びっくりよぉ…」

「あ、ええ、ホントね……」

「そうよぉ、こんなところで会うなんてさぁ……」

 今日は、子供の入学式前のオリエンテーション――
 
「そ、そうね…」

 わたしは、こうして、彼女と言葉を交わしながら…
 胸が、張り裂けそうになっていた。

 本当は、立っているのも辛いくらいに高鳴っていた……

 そして、それが何でなのかも分かっていた。

 でも、それは、わたしだけなの?

 視線が合うたび、間が生まれ…

 言葉を返し、目を合わせるのが精一杯であった。

 胸いっぱいに広がる、甘ずっぱい、あの青春の過去…

 昔のままのはずなのに、同じではいられない…

 触れていないのに、距離だけがわずかに近づいていく
 ただ、方向だけが変わり始めていた―――


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