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春のほどけ…戻れない距離

第2章 「卯月」―揺れと否定

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「いよいよ明日は、待ちに待った入学式ね」

 めいは、わたしを優しく腕枕し、そう、言ってきた…

「うん、そうねぇ、なんか、あっという間だった感じがする…」

「そうね、弥生は、旦那さんが亡くなってから大変だったもんねぇ…」

「え、あ、うん…でも、実家だし…
 今、思えば、あっという間だった…」

 そう言いながら、めいの胸元に顔を寄せ、目を閉じる…

「夜勤明けだから、少し眠る?」

「ううん、帰る、色々しなくちゃならないし」

「うん…そうだよね…」

「うん」
 わたしは、そう呟き、ゆっくりと起き上がる。

「そっか……」

 身体を離す…

 温度が、抜ける。

 あれから…

 休みだけではなく、夜勤明けでも、逢いにきてしまっていた。

 理由なんて、もうない…

 ただ、ここに来てしまう。

 つながりが…

 前よりも、深く、近く…
 
 強くなってしまったみたい。

 なのに、埋まらない…

 まだ…

 空いたまま―――


 それは…

「じゃあ、明日の入学式でね…
 あ、明日は、夫も来るから、弥生には、初お披露目だねぇ…」
 と、めいは、目を揺らしながら、言ってくる。

 そう…

 二人の間には、もう一人いる………から。

 昔みたいに、二人では、ないから―――

「うん、めいの旦那さまに会えるの、楽しみだなぁ……」

 それは、嘘……

「……え……な、なんか、嫌だ……なぁ………」
 
「ううん、楽しみ……」

 本当は…

 できることなら…

 一緒の空気さえも、吸いたくはない。

「なんか……嫌……」

 めいは、ベッドサイドに飾ってある、家族三人の写真を、チラと、横目で見る…

「ううん、楽し…み………」

 本当は、この、寝室も………嫌。

 だから、わたしは、まだ、この写真を、ちゃんと見ない…

 見れない。

 だって、その存在を見てしまったら…

 もっと、二人の隙間が、開いてしまいそうだから―――



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