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SAKURA (さくら)

第3章 ソメイヨシノ 2 美卯

 7

「美卯くんは…」

「はい、営業二課です」

「そうか、二課か…」

 一瞬、揺らぐ目。

「はい…」
 弥生さんは、営業一課、課長。

「………」

「わたしの彼氏が一課で、弥生課長の直属なんです」

「ほぅそうか、彼氏が…」

「はい、かなり良くして貰ってるみたいで、だからわたしも…」

「そうか…」

「二課か…」

「はい…」

「じゃ今夜、ここのバーで軽くどうかな?」

 今夜は、慶太との約束が…

「…え……」

 だけど…

 わたしの翳が、蠢き、囁いてくる――

「…す、少し遅れても……」

「うん、構わんよ」

「じゃ、よろこんで伺わせていただきます」

「ああ、楽しみだ…」

「はい…では、また今夜、失礼します…」

「うむ…」
 わたしは一足先に、レストランを出る。

 そして、ホテル内にあるショッピングモールに向かい…
 ネクタイを選ぶ。

 それは…

 慶太への、ネクタイと…

 部長への、ネクタイ――

 心の奥で…
 
 見えない線が…

 ゆっくりと、開いていく――


「あ、慶太…」

 定時近くに…
 わたしは、デスクに座っている慶太の元に行く。

 弥生課長も、デスクにいる――

「ごめん、今夜、わたしがダメになっっちゃったの…」

「え、そうなの」

「うん、急にね、大学時代の友達がね…」

 わたしは、嘘が得意…

 そして、嘘は、オンナの武器。

「ごめんねぇ、明日にして」

「あぁ、うん、かまわないよ」

 弥生さんの、視線が刺さる…

「でねぇ…お詫びのしるしにさぁ…」

 わたしは、買ってきたネクタイを広げる。

「どう、これ?」

「あ、うん、いいなぁ」

「ホントぉ、どうせ、わからないくせにぃ」

「あ、いや、ホント、いいよ」

「じゃ、代えてあげる…」

「あ…うん」

 わたしは慶太の椅子の向きを代え、ネクタイを代え、締め直していく――

 それは、弥生課長のデスクに、背中を向けて…

 そしてわたしは、ネクタイを締めながら、肩越しに弥生課長を見る。

「ねぇ、オンナからのネクタイのプレゼントはねぇ…」

「うん」

「あなたに首ったけ…て意味があるのよ」
 肩越しに、そう、告げていく。

 そして、ネクタイには、たっぷりと…

 『サクラ』の香りを…

 残してある―――


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