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今宵だけは~秘められた人妻との密会

第2章 潮時(2)

それから数日後、僕たちは二人で良く行った京都のレトロ感漂う喫茶店で待ち合わせをした。

今日もあいにくの雨で僕は高瀬川沿いの石畳の小道を待ち合わせ場所に向かって歩く。ここは京都でも有名な名曲喫茶店。静謐の中でジャズやクラシックが醸し出す柔らかな店の雰囲気を有香はとっても気に入ってくれていた。

今日も店内には静かな曲が流れている。

カランカランとドアベルが鳴り、一人の女性が入ってきた。黒い傘の雨を払い、肩にかかった雨露を払いながら僕の前に座る。

「かずくん、ごめん、遅れちゃって。待ったかしら?」

「ううん、僕もさっき着いたところさ。さっそくだけど何か頼む?」

「じゃあ、あなたと同じもので」と笑顔をたたえた表情で答える。

コーヒーが運ばれてくる間、有香は両肘をつき、手のひらに顎をのせながら、流れる音楽に耳を傾けている。僕は上から下まで有香の姿を観察する時間に入っていた。ブルーの上品なレースブラウンにプリーツスカート。スカートから伸びる美脚は薄黒のパンストに包まれ、足先は稜線が美しい黒のパンプスで隠されている。ブルーのリボンでまとめ上げられた髪は、頭の上で団子のように丸まっている。

彼女の装いはいつも清楚でありながら、女性である彼女の肉体や性をしなやかに意識させてくれる。ファッションに鈍感な僕ですら、彼女のファッションセンスを称える意識が芽生える。そして、僕の好きな女性らしい柔らかさや、体の曲線美を醸し出す服を装う彼女に会うたびに好きになっていく。

「この曲なんですか?」。僕はコーヒーを運んできたマスターに質問する。

「ショパン・ノクターン第4番です」とマスターが曲名を教えてくれた。

「やっぱりいいよね。ショパンって」。

有香がコーヒーを飲みながら呟く。有香はコーヒーを置くと、またも手で顔を支える格好で曲に聞き入っている。

「難しい曲だよね。2番も好きだけど、これも好きだわ。とってもキレイな曲。」

「有香さん、最初に来たときに流れてたのもショパンだった?」と聞くと、有香は「あのときは確かドビュッシーだったわよね」と答えた。

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